Efforts will be paid off

“Aya, can I talk to you a little bit?”

Drawingの授業中、講師であるErickにそう言われた私は静かに教室を出た。
一体何を言われるんだろうかと内心ビクビクしていた私の足取りは鉛のように重くて、課題の事で何か問題でもあったのかとばかり考えていた。

彼のオフィスに入ると見覚えのあるportfolioを渡される。
中を開けると自分の作品と一緒に一枚の紙が出てきて、そこには”A”の文字と短い文章が書かれていた。
どうやら今現在の私の成績らしい。

何だ、これだけ?と安堵の溜息を漏らした私だったが、
いつも穏やかな表情をしているErickの顔は途端に真剣なものに変わったので、
何も言えずに彼の言葉を待った。

「君のメジャーは何だい?」

「元々はマーケティングを専攻してたけど、今はメジャーを変えようと思っていて…」

「アート系、だよね?」

「はい、出来ればグラフィックデザインに。」

「成る程ね。」

そうか、グラフィックデザインか…と静かに呟いた彼は、私の作品を眺めながらこう続けた。
これまでにどの位の作品を描いて来たのか、と。

「どの位と言うと…期間の事ですか?」

「そう、何年絵の勉強して来たのかなって思ってね。」

正直言葉に詰まった。
アートの授業なんて今まで取った事が無かったし、
ちゃんとした技法を学んだ事なんて過去に一度も無かったから。

「その、実はこのクラスが初めてのアートクラスなので…」

「ないの? 一度も?」

「ないですよ。」

「え、嘘でしょ?」

「いや、本当です…。」

Erickは心底驚いたような顔をして、再び私のportfolioに視線を落とした。
無機質な部屋には紙が擦れる音だけが暫く。
暫しの沈黙に、思わず固唾を呑んだ。

「このクラスでの君の作品を全部見たけれど、直す所が見つからなくてね。 」

「はい…、え?」

アドバイスをしようにも出来ないんだよなあ、と独り言のように呟く。
徐ろに私の顔を覗き込んだ彼は、いつものように微笑んでいた。

「コンポジションと言い、コントラストと言い、バリューと言い、全てにおいてバランスが良い。」

「ほ、本当ですか…」

「ああ。 君が何故グラフィックデザインをメジャーにしたいかは知らないけれど、イラストレーションも視野に入れた方が良いと思う。」

あやは絵を描くのが大好きみたいだからね。
絵を見れば直ぐに分る、どれも生き生きしてるよ。
Erickはパラパラと作品をめくりながら、どこか嬉しそうに話していた。

言われて見れば確かに、イラストレーションには随分前から興味があった。
下手したらグラフィックデザインよりも私には向いているものかも知れない。
心の内を意図も簡単に見透かされているようで、少し照れ臭かった。

「君にはその素質がある。 絵が物凄く上手だからね。」

そしてこれからもっと上手くなるよ、僕が保証する。
彼は静かに私の肩を叩いた。
再び手渡されたPortfolioを抱き締めた私は彼にお礼を言い、オフィスを後にした。
ドアが開きっぱなしの部屋からはErickお得意の鼻歌が聞こえてくる。
気持ちの良い、爽やかな午後だった。

正直言うと、今の大学に編入してから心が休まる時なんて皆無で、
ずっとずっと不安だった。
課題の量はコミュカレの頃のそれとは比にならないし、毎日息が詰まりそうで。
ただただ目の前の事しか見えなくて、必死だった。

メジャーを変更するって自分で決めたは良いものの、やっていける自信なんて何処にも無かったし、中途半端な自分に嫌気が差す事もしばしばあった。

それでもこれで良いんだって思いたくて、誰かに認められたくて、
兎に角必死に頑張ってた。
そしたら今日、Erickが私を救ってくれた気がして凄く嬉しかったの。
わたしにも出来るんだ、って。 まだ遅くないんだ、って。

頑張っている人には、然るべき結果が返ってくるんだね。
だからこれからも努力し続けようと思う。
彼の言葉が無駄にならないように。
応援してくれている人達をがっかりさせないように。
何よりも、私の選択が正解だったって証明出来るように。

Aya

success is a journey,
not a destination